クハハハハ!第六天魔王、織田信長である!!合戦が始まりおったわ!クハハハハ!皆のもの!闘え!!斬って斬って斬りまくれい!!敵軍も浮き足だっておるわ!
しかし本陣は暇じゃ。こうなったら、ブログの更新をしてくれるわっ!!
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高校から付き合っていた信長と別れたのは、やっぱり仕事が原因だった。
あたしは働き始めてからずっと、がむしゃらにやってきた。頑張って頑張って、今はそれなりの仕事を任されるようになってた。その日も遅くまで働いて、部屋に着いたのはもう日付が変わった頃だった。ひとつ、ため息を吐くと、ベッドで寝ていた信長が目を覚ました。
「あ、お濃。悪い、寝てたな。お帰り。」
「ううん。信長も仕事疲れてるでしょ?寝てていいよ。」
あたしがコートを脱いで、すぐに机に書類を出してその日の仕事の続きをはじめると、信長が話し掛けてきた。
「てゆうか、帰って来ても仕事?」
「うん。どうしてもやらなきゃいけないのがあって。」
「最近話す時間もないのな。」
信長の言うとおりだった。一緒に暮らしてはいるけど、お互い仕事で、あたしは下手すると土日もなくって。でも、仕方ないじゃない。仕事なんだから。
あたしが信長の言葉に聞こえないフリをしていると、信長はあきらめたように言った。
「あんまり、がんばりすぎるなよ。」
今思うとなんでこの言葉があたしのカンに障ったのかわからないけど、すごく嫌な気分になった。馬鹿にされてるみたいで。
何言ってるの?「がんばりすぎるな」?どうしてそんなことが言えるの?どうしてあたしががんばっちゃいけないの?あたしは書類に目を通したまま、衝動的に口を開いた。
「信長さー。」
「んー?」
「あたしたち、もう、やめよっか。」
「は?」
あたしは信長に向き直る。信長はびっくりした顔してた。
「だってさ、会う時間も少ないし、こんな関係、意味ないと思うの。」
「え、いや、なんで急に。」
「てゆうか、あたし、仕事を、ちゃんと、したいの。」
あたしがはっきり言い切ると、信長は少し考えてから、「荷物とかは、後で連絡する。今日は、出てくわ。」と言って、部屋を出た。
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結局その部屋は信長の部屋だったから、あたしが出て行ったんだけど、それからあたしはより一層仕事に没頭した。休みなしに働いて、働いて。
仕事帰りの新宿駅、時計はもう23時。駅の構内は人が嵐みたいに流れていた。走って乗り換えホームに向かう中年のサラリーマン。これから新宿に繰り出すであろう派手な若い女の子。一生懸命帰る女の子を引き止める若い男。酔っ払ってまっすぐ歩いてないおじさん。
いろいろな人種がそれぞれの方向へ進んで行く。これをかき分けて中央線のホームに行かなくちゃと思い、ため息を吐いた所で、ふと、おかしな疑問が浮かんでくる。
あたし、どっちに向かって歩いたら良いんだっけ。
なんで、こんな頑張ってんだっけ。
って、なに考えてるんだろ。ダメだ。疲れてるからこんな事。早く家に帰ってシャワーを浴びて、明日の書類に目を通して、布団の中に入らなくちゃ。でもこの疑問は。
この疑問は、ずっと持っていたもので。
答えは、出てない。わからないから。だからずっと目を逸らしてた。少しだけ立ち止まる。人の流れは次から次へと押し寄せ、あたしはすぐに人の濁流に飲み込まれた。体が流され、周りの景色がどんどん白くなって行く。ああ、あたし、どこに行くんだっけ。
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「・・・気がついた?」
目を開けると信長が居た。
「ここ、新宿駅の医務室。貧血だって。」
「なんで信長が・・・?」
「駅員が、お前の携帯の『自宅』にかけたから。」
ああ、そういえば。あたしの携帯の『自宅』のメモリは、まだ信長の部屋だった。
「あー・・・。ごめんね。」
「いや、いーよ。」
沈黙。すると信長があたしの頭を撫でながら、口を開く。やさしい声で。
「お疲れさま。がんばったね。」
あれ。
答えが、見つかった。
大きな手であたしの髪の毛をくしゃくしゃにする信長。そっか。あたし、この手が欲しかったんだ。どうして気付かなかったんだろう。
信長に褒めて欲しくて、認めて欲しくて。だからがんばってたのに。あたしは、それを、気付かずに、自分から。
「ごめんね。信長。ごめんね。」
あたしはもう、何を言ったらいいのかわからずに、額に手を当て、泣き、謝り続けた。信長はその間、ずっとあたしの頭を撫でててくれた。
医務室を出ると、新宿駅は終電を逃すまいと急ぐ人たちで、濁流はさらに強く、早くなっていた。
「あ・・・。」
つい、ひるんで声が出た。
「ほら。」
信長が手を差し出す。その手は、あったかくて、おっきくて。
この手をもう放すまいと、心に誓う。もう、どこに行くか迷うことなんてない。みちしるべがあるから。
あたしは、信長の手を、強く握る。
***
ええい!やはり本陣は退屈じゃ!わし自ら先陣に駆けつけ、殺して殺して殺しまくって、敵を食らい尽くしてくれるわっ!!!