ぬ…。おい貴様。敵を一撃で撃破出来なかっただと…?
ふざけるなっ!一撃必殺こそ我が軍の掟!ダラダラと戦闘を長引かせることなど言語道断。潔く自害せぬかっ!出来ぬのならわしが自ら貴様の首をはねてくれよう!!
前に書いたブログの続きを書いてからなっ!
第1話
第2話
第3話
***
三年ぶりくらいかな。この人と会うのは。いくつになっても変わらない、若々しい見た目。きっとまた新しい恋をしてるのだろう。「久しぶりね、お濃ちゃん。元気だった?」タバコの煙を横に向けて吐き出しながら言う。別にそうしなくたって。あたしだって普段タバコ吸ってるよ、ママ。
ママは五年くらい前からたまに電話してくる。大体男と別れた時。はじめは嬉しくて何回か会ったけど、すぐやめた。だってこの人はただ寂しいだけだから。あたしにはそんなのに付き合ってる暇ないし。でもまた会っちゃった。なんでだろ。ああ、うん。あたしが、寂しかったからか。
*
蘭丸との2人暮らしは、唐突に終わりを告げた。信長の部屋に上がったあの日から3日後、蘭丸の部屋が空っぽになってた。残ってたのはダイニングのテーブルの上に、ぽつんと置いてあった手紙。蘭丸と信長の関係と、ごめんなさいって百回くらい書いてある手紙。
何も言わずに出て行ってごめんなさい。
知らなかったんだ。ごめんなさい。
もうここに居られない。ごめんなさい。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
そんなことばかり書いてあった。そして最後に四文字。
さよなら
それを見て、スーッと、頭が冷たくなってくのを感じた。足の感覚がなくなって、そのまんまへたり込んだ。心臓が背中側に持っていかれて、息が出来なかった。苦しくて、苦しくて、苦しくて。ぷは、と言ってやっと呼吸が出来たら、今度は、ぷは、と一緒に涙が止まらなくなった。ぶは、ぷは、ぷは、と、泣く。座っている力もなくなって、横に倒れてまた、ぷは、ぷは、ぷは。
何に対して泣いてるかなんてわかんなかった。ただ、苦しくないように一生懸命に呼吸をして、その度に涙が噴き出してた。ダイニングの床がすっかりあたしの体温を奪った頃、少し落ち着いて、冷たい体を引きずって、水を飲む。振り返って空っぽになった蘭丸の部屋を見て、泣いてる理由がわかった。
あたしも、全部なくなって、空っぽになったんだ。
そうだよね。信長追いかけて、蘭丸と楽しく過ごす為に東京に来て。そんだけだもん。あたしの全部。今度は蘭丸の部屋で子供みたいに大声上げて、泣いた。
*
それからぬけがらみたいに過ごして、目の腫れがひいた頃、ママから「会いたい
」の電話があって、言われるがままに外に出た。
「ちょっと、元気じゃないかな。」
ホントはちょっとどころじゃないけど。あの時と同じ。あんたに捨てられた時とおんなじ感じ。大事な人がいなくなっちゃったの。
「ねえ、ママ。」
ずっと言わないでいた質問が口から出た。
「なんであたしを捨てたの?」
ママは少し目を大きくした。驚いた?ごめんね。こんな事聞かれたら困るよね。少し天井を見て、タバコの火を消して、それからゆっくりしゃべりだした。
「捨てたっていうか・・・逃げたのよ。・・・ずっと、お父さんには愛人がいてね。でも、私はお父さんをずっと好きでね。我慢してれば、いつか幸せな家庭になるかもって思ってた。」
ママはこめかみの辺りに手をあてて続ける。
「で、我慢して我慢して我慢して、はじけちゃった。若い男と逃げちゃったの。それからすぐにお父さんが亡くなったって聞いたわ。あんたのことを引き取ろうとしたけど、若い男と逃げた嫁になんて渡せないって、親戚連中がね。」
ため息をつき、首を横に振る。
「バカだったわ。あんたとあの人、大事なものを守る為に何もしようとしなかった。我慢なんて、何もしてないと同じ。言わなかったこと…後悔してる。」
なんか、スッと体が軽くなった。
父親の行動に対する驚きや、ママがあたしのことを嫌いで捨てたわけじゃないっていう安堵とか、そういうのよりもっと。やることが見えたっていう、気付き。
そっか。あたしまだなんもしてないや。信長にも気持ち伝えてないし、蘭丸に行かないでとも言ってない。いいのかあたしこんなんで。らしくないんじゃないの?らしくねーだろ。気合い足んねーだろコラ。
ヤンキーに戻りつつあるあたしの横でママは話を続けてた。
「あんたさえ良ければ、もう一度一緒に…」
「ありがと!ママと話して元気出たよ。あたしやることあんだわ!行くね!」
「ちょ!なによその豹変!」
「あたしはもう大丈夫だよ。無理しないで。ママにはママの生活があるんだから。」
「つってもあんた・・・」
「ママ、今度の彼氏はいくつ?」
「・・・あんたの方が歳は近いよ。」
幸せそうな苦笑いするママ。いーよ。お互い大事なもんあるんだし。今度楽しく女同士の話でもしようね。
あたしは勢いよく店を出た。まずは信長んちだ。
***
何?次こそは一撃で決めると?羅刹となると申すか。クハハハハッ!面白い!ではもう一度チャンスをやろう!次の一撃で決めてみせよ!必ずだ!次で終わりにせよ!もう良いだろう!終われ!