織田信長ブログ【ヤンキー→乙女5】
- 2010.04.02 Friday
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ワレハ、魔王ナリ。
ワレニ、長編ハ、向カズ。
ワレハ、魔王、ナリ。
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駅の通りを少し行くと、もう高い建物はなくなっていつもシャッターが閉まってる古本屋とか神社しかない。そこを抜けると、ところどころに田んぼと、ぎっしりと密集して民家がある。そんだけ。なんもない町。
「…変わってないね」
雨上がりで濡れた路面に映るぼんやりとした灯りを眺めながらあたしは言った。
「そうだな」
信長も下を見て言った。
*
あれからあたしたちは蘭丸の行方を2人で探してる。お互いの蘭丸との関係や気持ちの話はしなかった。そんな話したらその場で動けなくなりそうだったから。
大学に行っても、他の友達を訪ねても、どこにも蘭丸のにおいは残ってなかった。誰に聞いても「突然連絡がつかなくなった」ってだけ。
ひょっとしたら、と思って2時間電車に揺られて地元に戻って来たけど、やっぱここにも蘭丸のにおいはなかった。捜すあてがなくなったあたしたちは、なんとなく学校に向かって歩いた。
やっぱ地元だから、そこここに懐かしい景色が広がる。自転車通学は禁止されてたから、あっちに見える秘密の駐輪場で良く蘭丸と話したな。あのパン屋まで3限の休み時間に走って行って、蘭丸だけ4限間に合わなかったな。
・・・嫌だな。こんな時に。蘭丸との思い出ばっかり。信長を見ると、どこか遠くを眩しそうに見てた。そっか。信長も、思い出見てるんだ。蘭丸が居た、高校時代を。
濡れた草のにおいが強くなって、校門に着いた。やっぱり門は閉まっていて、いつも遅刻の時に使ってた、野球部の穴の開いたフェンスからグラウンドに入る。また、思い出の蘭丸を探して校舎を見上げる。三人で来れたら暖かい学び舎に見えたんだろうけど、今はただの、無機質な四角いコンクリートだった。
「・・・いた。」
信長が、喉から声を絞り出した。信長の視線の先は、屋上。手すりの、外。
あいつ、何やってんの。バカ。バカ。バカ。階段を駆け上がる。どうしよう。あたし、蘭丸、なんでこんなこと。
「蘭丸!」
一足先に屋上に着いた信長の声にビクッとして振り返った蘭丸と目が合った。あ、あれは、あの頃の目。女みたいっていじめられて、自分のよりどころを探してる目。
そんな目、しないでよ。息が詰まるじゃん。
「なんであんたそんなとこいるのよ!」
精一杯、吐き出した。
「…なんか気付いたら、こんなとこにいたんだ。」
手すりにかかった自分の手に視線を落として、蘭丸は続けた。
「僕はお濃ちゃんの大切な気持ち、めちゃくちゃにしちゃったから。…謝って許されることじゃないけど…ごめんね」
気持ちが爆発した。
「あんただって、あたしの大切なもんだ!だから…そんなことするなぁ!バカぁ!」
驚いた顔の蘭丸。その隙に信長が蘭丸に飛びついて手すりの内側に引きずりこんだ。
「お前!こんなっ…こんなに痩せちまって!なんでこんな…!」
「らんっ…よかっ…しんぱ…」
もうあたしも信長も涙が止まんなくて、何言ってるんだかわかんなかった。ただただ、蘭丸に抱きついて泣いてわめいた。
*
それから、あたしたちは三人で暮らしてる。みんながみんなのことがおんなじだけ大切ってわかったから。「好きじゃない女と毎週飲むはずないだろ」って、顔を真っ赤にして信長が言ってくれたのは嬉しかったな。
そんで、ヤンキーねえちゃんだったあたしは、恋する乙女を経て現在、南の島にやってきた。あっちい。遠くで波の音が聞こえる。少しおかしな形かもしれないけど、これから先ずっと三人で病める時もすこやかなる時も、ね。そう誓ってステンドグラスを見上げると、後ろから呼びかけられた。
「おい、写真とろーぜ」
「お濃ちゃん、はやくはやく!」
白いタキシードを着た蘭丸と信長が教会の扉の前で微笑んでる。
「あんたたち、これ動き辛いんだからエスコートくらいしろよ!」
あたしはウエディングドレスを引きずって二人にかけよった。
***
ガッ!ハッ!クッ…!
ハァ、ハァ、ハァ…
今回は、危なかったぞ。我の中にある真の闇の力を解放せねば、この戦を乗り切れなかったやもしれん。長編になると必ず出てくる伏線?設定?そんなものに何の意味があるというのだ!今を生きろ!「今を生きる」だ!な!