織田信長ブログ【ひまわり1】
- 2010.09.04 Saturday
- 00:00
クハハハハ!信長である!なにぃ?まだ敵の城を落とせないと申すか!なにをタラタラやっておるか!!うん?攻め方がわからない?貴様、何を言うておる。
単純に一方向からの攻めで落ちるような城ばかりだと思ったら大間違いであるぞ!多角的な視点から判断して攻撃を加えぬか!
わからないのなら我がブログを見て勉強せい!!
***
グラデーションも何もなく、ただ青い絵の具を均一に塗ったような、雲ひとつ無い夏空。教室の中で揺れるカーテン。一番窓際の席で授業を受けている、髪をひとつに束ねた斉藤の少し汗ばんだ首の後ろを、僕は一番廊下側の席からぼーっと見つめていた。
隣の女子に話しかけられて笑う斉藤の笑顔は、青空によく似合う。明るくて、見てる人を元気にする、太陽みたいだ。
斉藤は女子バスケ部のエースで、明るくてかわいい。人懐っこい笑顔で誰とでも仲良くなれる、クラスの人気者だ。まあ、美術部の僕とはグループが違うので、今までほとんど話したことはないんだけど。
それでも僕は斉藤に惹かれていた。ただ明るいとか、かわいいってだけじゃない。なんていうか、自分が周りを明るくしようっていう感じ。友達が泣いてたら一緒に泣いて、その後で一緒に笑ってる。なんかその一生懸命な感じがいいなって。
「織田は好きな子とかいるの?」
そんなことを考えてたもんだから、昼休みにクラスメイトの秀吉にそんな質問をされた時に、少しだけ焦った。
「なんだよ急に」
「いや、あんまり織田からそういう話聞かないからさー」
「びっくりするじゃんか」
購買で買ったパンを一口食べて慌ててないフリをする。
「で、いるの?好きな女子」
「いるよ」
「誰?誰?」
斉藤。
なんて事は言えるはずもなく、「そんなの言わないよ」とごまかした。秀吉は午後の授業が始まるまでずっと「誰?誰?俺協力しちゃうよ?マジで」とうるさかったけど、無視した。
放課後、美術室に寄って文化祭で展示する絵の締切りを聞いてからバイトに向かった。個人経営の小さなカラオケ屋で、カウンターで受付するだけの楽なバイトだ。文化祭の絵を何にしようかなーと考えていたら、高校生のカップルが来た。
「2名で」ふんわりとした雰囲気の優しそうな男がにっこりと笑って言った。感じの良い男だな。どこの制服だろう。うちの学校じゃないな。後ろに居る女の子はどうやらうちの高校みたいだけど。
ふと女の子を見て、声が出そうになった。斉藤だった。どうやら僕には気付いてないらしく、壁の張り紙とかを見ている。まあ、ほとんど話したことないしね。「8番の部屋になります」僕は下を向いたまま彼氏にリモコンを渡した。
狭い廊下を曲がって部屋に入っていく二人。そっか。斉藤、彼氏いたんだ。まあ、あんだけいい子だし、かわいいしね。普通彼氏くらいいるよ。別に僕が何か行動に移したわけじゃないから、振られたわけでもないし。大体彼氏すげーかっこよかったし。感じもいいし。でも。でも、あー、やばい。少し泣きそうだ。
カウンターで頭を抱えていると、ドタドタドタ!と廊下を走る音が聞こえた。カウンターの前まで走って来て、止まった。斉藤だった。
「あ・・・よ、よう」
我ながら間抜けな声であいさつした。斉藤は少し、口をパクパクさせてから、息を吸って、大きな声で言った。
「とっ、友達だから!!」
頭の中が一瞬ハテナになった。友達?あの男と?それをなんで僕に?ああ、そっか。他校の男と付き合ってるとか、嫌らしい事をしていたとか、尾ひれ付けた噂を流されたくないってことかな。そんなことしないから大丈夫だよ。僕は出来る限りの笑顔を作って言った。
「あ、うん。そうなんだ。わかったよ」
斉藤は、ほっとした顔で少し笑い、部屋に戻っていった。
斉藤と会話が出来た事は嬉しい。でも僕じゃあの男に勝てる要素ないしな。でも友達だって言ってたし。でもそれが本当かなんてわかんないし。頭の中がぐるぐるになってきた。もう一度斉藤と会うのも嫌だったので、店長に頼んでバイトを上がらせてもらった。
もう日も落ちて、空の色は深い群青に変わっていた。川沿いの道に咲いているひまわりは、太陽の位置がわからず迷っているようだった。でも明日になれば、きっとこいつはすぐ太陽の方を見るんだろうな。僕とおんなじだ。
***
・・・わからぬか?まだわからぬと申すか?
ええい!では来週またここに来い!多角的な視点というものを思い知らせてやるわ!!