クハハハハハハ!信長じゃ!!寒さなどは我が敵ではないわっ!
しかし乾燥は良くないのう。良くないことばかりじゃ。
***
信長はいつもリップクリームを持ち歩いていた。
あたしはいつもリップクリームを失くしていた。
「また失くしたの?」
「うん。なんでだろ。」
「ちゃんとカバンを整理しないからだよ。」
「だって、面倒なんだもん。失くしたら買えばいいし。ちょっと貸して。」
そう言って信長からリップクリームをふんだくって自分の唇に塗る。そんなあたしを見て信長は言う。
「いいよ。あげるよ。」
「そしたら信長が困るじゃない。」
「こうすればいいから平気。」
信長はあたしの唇を吸う。長い、長いキス。そのままゆっくりと、長い時間をかけた丁寧な愛撫。温かい海の中に沈んでいくような、心地の良いセックス。
信長との時間は幸せだった。大雑把なあたしを信長は優しく包んでくれた。いつでも側で笑ってくれて、あたしのわがままを聞いてくれる。でも、ダメね。調子にのるのはあたしの悪いとこ。あたしは甘えすぎた。わがままがどんどんひどくなっていってるのは自分でも感じてた。あの日もそうだった。
「今年のクリスマス、どうしよっか?せっかくだから旅行とか行っちゃう?」
「ごめん・・・実は仕事が入っちゃってるんだ。」
「はぁ?3連休のクリスマスじゃない。何言ってんの?」
「ごめんね。」
「ごめんじゃないわよ。そんなの断りなさいよ。仕事なんてしないでよ。バカじゃないの?」
「いや、俺だってしたくはないけどさ。」
「だったら休んでよ。」
「おいおい、困らせないでくれよ。」
信長の愛情を確かめたかったのかもしれない。バカな女。
「じゃあ、もういいわ。」
「なんだよもういいって。」
「別れる。」
あたしがそう言うと、信長は「ごめんよ。そしたら上司に掛けあってみるから」って言ってくれる。はずだった。
「わかった。」
ため息と共に信長の口からそんな言葉が出て、信長はあたしに背を向けて去って行った。ちょっと待ってよ。それはあたしの仕事で、あなたはそんなあたしを追いかけるのが仕事でしょ?なんで一度も振り返ってくれないの?
信長の背中が消えるまで、あたしはその場を一歩も動けなかった。
それから2週間経ったけど信長からの連絡はない。今週末クリスマスなんだけど。でもあたしからはどうしても連絡出来なかった。悔しいというか、なんて言ったらいいのかわかんないというか。そんな時、ちょっとカッコいい同期の男の子から誘われた。
「なあ、ヒマなら飲みに行かない?」
新しい出会いなんてどこにでも転がっているもので、次の恋なんて簡単に見つかるものだし。
あたしは誘われるままに飲みに行き、しこたまワインを飲んで酔っ払い、そのままホテルへ行った。その男の子の唇はガサガサで、セックスも自分勝手なものだった。あたしは事が終わると、寝ている男の子を置いて、ホテルを出た。
自分の部屋に戻ると朝方になっていた。そこで自分の唇もガサガサなことに気がついた。ぐちゃぐちゃのカバンをあさってリップを探す。でも、見つからない。あたしは苦笑いする。
また失くした。まあ、買えばいいや。
でも。
ああ、でも、そうだ。あのリップクリームを手にする資格を、たった今、ゴミみたいに、捨ててしまったんだった。
あたしはガサガサの唇を手で覆い、泣いた。
***
本当に乾燥というのは良くないのう。
この乾燥というものを生み出したものは誰じゃ・・・?
・・・神、か。
面白い・・・面白いぞっ!!では神を殺すまでよっ!!
ゆくぞみなのもの!!目指すは神の首じゃー!!