クハハハハハハハハハ!!!!織田信長である!!
皆の者!今日も元気に殺ろうではないか!!敵軍を殺して殺して殺しまくるのじゃ!!そのためには朝の起き方は大事じゃ!!
わしか?わしの今朝の起き方は、刺客の刀を避けるところから始まったぞ!そのまま枕元の刀で切り捨ててやったわ!!最高の寝起きだったぞ!!
さあ魔王の軍団よ!出陣じゃ!!
ブログの更新をしてからなっ!!!!
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「おはよう。濃ちゃん。朝だよ?起きて?」
優しい声で肩を揺すられて目を覚ますと、笑顔の信長がいた。この人、朝はいっつも満面の笑み。低血圧のあたしからしたらこのテンションは考えられない。
「ご飯できてるよ。顔洗ってきな」
寝室から出てテーブルを見ると、ごはんと味噌汁と焼き鮭と生卵。完璧な朝食。「コーヒーとパンだけなんて味気ない朝食じゃ元気でないもんね」というのが信長の意見。
昨日の夜にあたしが全巻出して読みっぱなしにしていた漫画の本はしっかりと本棚に収められて、読み途中だった巻だけがソファーの横に置いてある。あたしが夜にどれだけ汚しても翌朝には片付いてる。
信長と付き合って、二人で暮らし始めて2年。いや、最初はあたしもちゃんと料理を作ったり掃除をしたりしてたんですよ。ホントに。ただ、あたしの方が仕事が忙しいってのと料理が信長のが上手だったりと、まあ、そういったわけで、この状態になっている。
多分信長は家事が好きなんだろう。綺麗に磨かれた鏡に水滴を撒き散らしながら顔を洗う。彼氏と暮らしたら毎日おいしいごはんを作って綺麗なおうちでお出迎えしちゃううゾ☆キャピ☆なんて考えていた時期があたしにもありました。
でも、仕事の忙しさとこのお母さんみたいな彼氏があたしの生来のズボラを引き出してしまった。昨日の夜の残りではなく、ちゃんと朝に作った豆腐の味噌汁を飲んで一息つくと、信長があたしの分のコーヒーを持ってきてくれた。
「今日、濃ちゃん仕事終わってからそのまま実家行くんだよね?」
「あ、うん。そんで明日の土曜は朝からアヤの結婚式で、その日も泊まって日曜の昼過ぎに帰ってくるかな」
「オッケー。そんじゃ、俺先に出るねー」
「ん。いってらっしゃい」
軽くキスをして信長を送り出す。
ホント、これでキスしてなかったら信長はお母さんだ。結婚するならこういう、家事の好きな男とした方がいいな、と化粧をしながら思う。ただ、どうなのかな。結婚相手と恋愛相手は別っていうけど。
正直、今の自分が信長のことが好きかというと、わからない。いや、毎日ごはん作ってくれたり、家事してくれたり、そういうところは嬉しい。ただ、なんていうか学生の時に感じたあの「トゥクン」っていう胸の高鳴りみたいなのはないじゃない?そういうのがないと、相手のことが好きかどうか、測ることなんてできないじゃない?
化粧が終わって、着替えて、食べた器をキッチンまで運んでから家を出て会社に向かった。
*
土曜日のアヤの結婚式は、結婚式というよりも同窓会だった。まあ、地元の結婚式ってこんなもんだよね。地元の子たちは結婚が早い。2次会では「今日は子供は親に預けてきたから!一晩中飲めるから!」なんて気合いの入った発言もチラホラあった。
「濃は?結婚しないの?」
女友達の質問に曖昧に笑う。いや、ここ最近それで悩んでるんです。この人と結婚したら楽なんじゃないかなーって思ってるけど、そもそも結婚って楽かどうかで選ぶべきなのかって。まあそんなリアルな話は今ここじゃしないけども。と、後ろから声をかけられた。
「斎藤、久しぶりじゃん」
振り返ると、イケメンがいた。高校時代から、女子に人気のある男子。そして女好き。彼女をとっかえひっかえしていたやつ。あの頃よりも垢抜けてイケメンに磨きがかかってる。まああたしはイケメンよりもその友達A、みたいな存在の男が好きだったんだけど。そのイケメンはなぜかあたしの隣に座った。
「いやー、俺も地元帰るの久しぶりなんだけどみんな結婚しちゃってんのな」
なるほど。
高校時代は女の子にちやほやされてきたけどみんな既婚者になってそういう感じじゃなくなってしまったので独身女のところに来たか。
まあイケメンと酒を飲めるのも悪くない、と思って話を聞いていると「俺も地元に戻りたい」とか「料理が出来る女の子が良い」とか言い出したので、嫌な予感はしていたんだけど「実は昔は斎藤のことが気になってた」って手を握ってきたところで限界だった。
あたしだって結婚はしたい。でもその相手はイケメン、お前じゃない。
なんだか無性に信長に会いたくなって、女友達とイケメンの3次会への誘いを断って、新幹線に飛び乗った。
*
部屋は暗く、荒れ果てていた。
昨日の夜に脱いだであろうスーツはそのままクシャッと廊下に捨て置かれていた。恐る恐るキッチンを見ると、昨日あたしが置いた朝食の食器がそのままになっていて、横には汁を捨ててないカップラーメンと冷凍食品のパスタの包装紙があった。
部屋の床には漫画とお菓子の袋が散乱し、テレビはお笑い番組の録画が再生されていた。そのテレビの灯りに照らされて、ソファで信長が寝息を立てていた。
「こ、これは・・・」
この状態は、あたしが実家暮らしだった時に親が土日出かけた後の様子に似ておる・・・!見える・・・!朝起きてから一歩も外に出ずに漫画とテレビとお菓子に囲まれた生活を送った様子が見えるぞ・・・!!
「ん・・・んー、えっ?」
信長のまぶたが震えて開いた。信長はあたしを見て、時計を見て、またあたしを見た。
「あれ?なんで?どうしたの?」
「いやー、帰ってきちゃった。てゆうかこの部屋、どうしたの?」
「ごめんごめん、ちょっとだらけてた」
電気をつけてそそくさと床に散乱したものを拾う信長。親が早く帰ってきた時のあたしの感じとダブって、つい笑ってしまった。信長もごまかすように愛想笑いをする。
「信長もだらける時あるんだね。家事好きなのに」
あたしがそういうと信長は「はてな?」という顔をした。
「俺、別に家事好きじゃないけど?」
「え?・・・いや、好きでしょ。料理とか掃除とか」
「いやいやいや、俺が好きなのは家事じゃなくて濃ちゃんだから。濃ちゃんが喜ぶと思って料理作ったり掃除したりしてるだけで、普段ひとりだとこんなもんだよ」
なにをいまさら、みたいな顔で笑いながら漫画を本棚にしまう信長。
そんなことあたりまえみたいに言われたら「トゥクン」ってなっちゃうじゃん。あたしはそのまま信長の背中に飛びついた。
「なになになにどうしたの」
「片付け明日にして、ベッド行こ?」
*
翌朝。あたしは朝早くに起きて、そーっとベッドを抜けだして部屋の片付けをした。スーツをハンガーにかけて、ゴミをまとめて、食器を洗って、ごはんと味噌汁、目玉焼きとウインナーを作った。
「よし、完璧」
そして寝室で信長の寝顔を見る。あたし、今日は早く起きてごはん作ったんだよ?偉い?嬉しい?起きたら喜んでくれる?そんなことを考えていると、つい顔がにやけてきてしまう。
あ。そっか。
信長が毎朝笑顔だったのって、こういうことだったんだ。
ねえ信長。あたしのこと好き?好きでしょ。知ってるんだから。あたしも好きだよ。信長のためになんでもしてあげたいって思っちゃうな。信長も一緒でしょ?
あたしは満面の笑みで信長の肩を揺すった。
***
クハハハハハハ!!皆の者!朝飯は食べたか!!朝飯は大事じゃ!一日の活力となる!朝飯を食べなければ殺れるものも殺れなくなってしまうぞ!!
しかし、腹いっぱい食べてはならぬぞ。八分目にしておけ。
これから敵軍の血肉を喰らい尽くすのだからなっ!!!